伝統調律の表現力を再発見古い尺八は表側にある４つの指孔の間隔がほぼ均等な距離に開けられています。現代の尺八は第３孔と第４孔の間隔が広くなっているか、または第３孔の大きさがちょっと小さめになっています。１尺８寸管の場合「チ」の音程を442に合わせようとするとそうならざるを得ないのです。古い尺八のように均等に孔を開けると「チ」は必ず上ずってしまうのです。このことをもって「伝統調律はオンチ」と言われることが多いのですが、果たしてそうなのでしょうか？「チ」の運指で吹き方によって「ラ」の音も「シ♭」の音も出せるというのは、弱点ではなくむしろ「強み」ではないかと思えるようになってきました。尺八は奏者の息によっ音色や音程を自在に変えられる「ウィンドシンセ」のような楽器です。現代尺八では（１尺８寸管の場合）乙のシ♭を出すためには「ハの半音」一種類の運指しかなく強い音を出すのは難しいです。しかし古い「伝統調律」の尺八では「ハの半音」の他に「チのカリ」という方法で力強い音が簡単に出せるのです。また現代尺八で甲のシ♭を出すのには「ハの半音」の他に「井」という運指がありますが、往々にしてカリが不足し音程が上がりきらず音色もキツすぎるきらいがあります。それに対して「伝統調律」は第３孔の音程がもともと高いのでそれほどカリ操作をせずとも柔らかい音で「井」が出せます。つまり曲想によって音色の選択ができるということです。
ヴァイオリンやトロンボーンのように尺八を演奏したいギターにはフレットがあり誰が演奏しても正しい音程に近い音は出せますが、ヴァイオリンはそうはいきません。すべての正しい音程を指先で探して微修正を即座にしながら演奏しているのです。下手なヴァイオリン弾きの演奏はさておき、名人は完璧な音程で演奏します。フレットがないからそのようなことが可能なのです。トロンボーンも管の長さをスライドで微調整して完璧な音程が出せる楽器です。一見音程操作があいまいに見える楽器ほど訓練によって素晴らしい音程を持つ楽器になるのです。尺八もメリカリ操作で音程の幅が大きく揺れ動く楽器です。正しい音程を聞き分ける耳を鍛え俊敏に音程を整える操作を行う技術を身につけることが、楽器としての尺八のポテンシャルを最大限発揮させる近道ではないでしょうか。このところYouTube村岡実師の大昔の演奏を聴いているのですが、その音程とリズム感の良さに驚愕しております。
今回の１尺６寸管の特徴まずお断りしておかねばならないのは、この古い尺八は１尺６寸管としては長さが短く、筒音の音程をEにするためにストレッチ（延長）する必要がありました。管を継ぎ足した部分を隠すためにカラーテグスを用いました。そこだけでは目立つので全体に「古鏡」風にして仕上げたということです。歌口は角に合わせて全体を「琴古型（龍畝風）」にしています。音色は地無しならではの耳障りではない優しい音色で音量も十分です。指孔は小さめで音のつながりも良好です。地無し特有の深いメリもよく効きます。伝統調律の最大のメリットである「チのカリ」を多用した演奏サンプルをお聞きください。もう５孔で十分という気がしてきました。「シバの女王」https://youtu.be/3KcuafP7mio 「ワインレッドの心」https://youtu.be/9fh2BniR2t4
【諸元】長さ 478mm 重さ254g 頭部直径35mm 底部直径55mm 歌口内径縦20mm 横20mm エッジ深さ3mm強 最大指孔10mm
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